塾長です。
1/14、市場クローズ後のReal Vision Daily Briefing、ラウル・パル(Raoul Pal)がFED利上げ予想、成長株見通しについて面白い事を言っていたのでご紹介。全編30分と長いので、(独断と偏見で)その部分だけ切り取り:
(市場ではインフレ派とデフレ派のディベートが続いている、ラウルはデフレ派、という背景がありつつ、動画開始5:57より)
・何が起きているかは、私にとっては単純だ。イールドカーブはフラット化している。それが直近の底を割れば、FEDは利上げできないということ。インフレ派が言っている4回利上げさえできないだろう。私は、10年債利回りの幅(channel)を30年の期間で見たチャートをthe chart of truth、真実のチャートと呼んでいる。上限は約2%だ。たまに、経済サイクルのピークで0.25%程度上回る事はあるが、その上限に達すると、逆転が起きる。ISM、新規受注、EQUIと言った指標が落ち始める。今日、小売売上の発表(注:小売売上がアナリスト予想を下回った)があったね。Atlanta FEDがGDP Nowのモデルを引き下げた※1。このようなマクロのシフトが水面下で進行している。コモディティーが上昇した後、先が見通せなくなっている。グロース株からバリュー株へのローテーションが起きている。超成長株・割高株が大きく売られた。しかし、債券市場が逆転すれば、それらも反転するよ。
ー債券が先行指標だというのですね。バリューへのローテーションなどは遅行している(lagging)だろうと。
・その通り。債券トレーダーの仕事はインフレとGDP成長を分析すること。それだけだ。株のトレーダーは、色々なモノを見なければいけない、センチメント、利益、自社株買い、全てだ。債券トレーダーは2つ、インフレとGDP。それが、彼らが正しい傾向にある理由だ。彼らは2つしか見なくて良いのだから。彼らはめったに間違えない。私のキャリアの中では、間違ったのは1994年だけだ。私はいつも債券市場に注意を払っている。債券市場は真実だから。
ーインフレにまつわる議論は興味深い。Real Visionに出演してくれたゲストの多くは、インフレがピークを迎えていると言っている。その一方で、賃金や住宅、賃貸価格の上昇を指し示す人達がいる。
・まず、それら(賃金、住宅、特に賃貸)は遅行指標だ。
次に、賃金上昇を見てみよう。まず、賃金はインフレ率より上昇していない。すなわち、賃金は実質的に上昇していない。そして、多くの人が労働市場から退出している。労働参加率は非常に低い。引退者の多くはベイビーブーム世代で、高給取りだ。ミレニアム世代の賃金上昇分と、ベイビーブーム世代の(引退による)減少分を合計すれば、多分需要を押し下げるだろう。それが、小売売上の減少に表れたのだろう。オミクロンの影響もあっただろうが。私は成長率が鈍っていると見ている。多くの人がそう思わないのは、パンデミック後のブレに振り回されているからだ。
ーそうだとすると、FEDはどうするか?
・FEDは彼らが言っている事をやらないだろう(アグレッシブな利上げはできないだろう)。1963年以降、FEDは経済過熱の恐れから金融引締めを語り始めるが、それを行う前に経済成長は無くなっており、最終的にFEDは金利を引下げてきた。多分2回の利上げは。もしかしたら、1回かも知れない。それが私の見立てだ。
ーなぜそう思うのですか?
・なぜなら、6月にはインフレ率が3%に落ち、ISMが52辺りに近づくだろう。落ち目の経済に対して、金融引締めはやりたくないものだ。そして、選挙。今はインフレと戦う姿勢を見せなければいけない。今できる最善策は、タフな言い回しをして、1回もしくは2回、それぞれ0.25%の利上げ。経済の自然の流れに任せ(インフレ率が下がれば)「俺たちがインフレを退治した」と言い、経済刺激法案を通すのだ。(現政権にとって)選挙の前に経済刺激策というのは完璧だ。
ー多くの人は4回利上げ、金融引締めと言っているのに、あなたは利上げが1、2回だと信じているのですね。驚きです。
・事実として、この20年間、毎年投資銀行は金利を高く見積もり過ぎてきた。予測失敗率、100%だ。それは、彼らが、人口動態とクレジットバブルによる長期的下降トレンドにいる事を無視するからだ。インフレを引き起こす事はできないし、金利を引き上げる事ができないのだ。確か、前回は2018年だった。私が”真実のチャート”を見て反転が起きると言った時、ジェフリー・ガンドラックは(10年債金利が)真実のチャートをぶち破り、6%に達し、世界が崩壊すると言っていた。これを3年間聞いたが、何も起きなかった。
今回は違うかも知れない?全ては確率の問題だ。私にとって(高インフレは)高確率だとは思えない。
ーリスク資産についてはどうか?
・長期の資産(long duration assets、この場合は長期的成長期待で買われている高PER株のこと)を魅力的でなくしているモノは、債券利回りの上昇ではなく、インフレである。インフレによってディスカウントされている。市場が高インフレが長く続くという誤りを犯しているとすると、成長株は再度爆発的に上昇するだろう。それはそうだろう。我々は指数関数的に加速する時代(exponential age※2)に生きているのだ。技術の指数関数的進歩を捕まえる高成長超株が、二度と上昇しないと考えるのだろうか?そんなことはあり得ない。IBM、GEについて語っているのではないよ。それらは数十年間、横向きだ(sideways)。指数関数的時代の株は数十年間ヨコになったりしない。1年~18か月、ヨコになる可能性はあるだろう。下げる事もあるだろう、今起きているように。しかし、その後には、それらがアホみたいに安く見える時が来る。インフレの物語が消えた瞬間、全ての人は成長株に再度群がるだろう。
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(このあと、仮想通貨の話などをしているので、気になる方は続けて動画を見て下さい)
※1:GDPNow - Federal Reserve Bank of Atlanta
※2:Exponential Ageというのは、ラウル・パルが強く推している考え方で、そんな本も出ている;今後、あらゆるものが指数関数的に変化する時代になる。書評「The Exponential Age」 | TechCrunch Japan。キャシー・ウッドが「AI、EV、ゲノム・・・の技術革新(Sカーブ)が互いに影響し合い、爆発的に進歩する」などと言っているのと同じような言説。
債券王、ジェフリー・ガンドラックに喧嘩を売るなんて、大したものです。今大声で彼のようにデフレを唱えているのは、キャシー・ウッドなど少数派になっているけれど、もともとFEDが「インフレは一時的」と言っていた根拠でもある。コロナ前、FEDやエコノミストの一番の心配が「米国経済の日本化」だったのを覚えている人はいるだろうか?※3
ガンドラックは断定的なモノ言いはしなくなっていて、今は「FFレートが1.5%程度になれば、株は暴落(そうなれば、FEDは金利引き上げを止めるかも知れない、下げさえするかも知れない)」的な事を言うようになっている(逃げ道を用意している)。
ジム・ビアンコはもう一歩踏み込んで、「株価が暴落しても、インフレが高進したままでは、FEDは利上げ継続せざるを得ない」と言っている。ロサンゼルス港沖に停泊している貨物船数や、コロナによる休職者増加を引き合いに出しながら、高インフレが継続しそうだとも言っている。
今後、インフレ、金利、株価がどうなる、楽しみで仕方がない!!!
こんな時でもバフェットに聞いたら「S&P500を買って、買った事を忘れろ」と答えるんだろうなぁ。
※3: