塾長です。
1月20日のバイデン大統領就任1周年演説(後のQ&A)をきっかけに、ロシアのウクライナ侵攻をまじめに取り上げるようになりましたが※1、その後もロシアと米国/NATOの間でバチバチの外交戦が繰り広げられています:
ウクライナ情勢、「米は要求考慮せず」とロシア 対話継続には余地 | ロイター
バイデン氏、2月の侵攻あり得ると警告-ウクライナ大統領と電話会談 - Bloomberg
ロシアが米にNATOからの核兵器撤去を要求|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト
EU、ノルドストリーム2停止の可能性否定せず ウクライナ情勢で | ロイター
Real Visionで、ピパ・マルムグレン(Pippa Malmgren)が、ロシアのウクライナ侵攻についてオモシロい見方をしていたので、ご紹介。
Wikipediaによると、彼女はジョージ・W・ブッシュに経済政策を諮問するNational Economic CouncilのSpecial Assistantだった、等と書かれている:Pippa Malmgren - Wikipedia
・ロシアがウクライナに侵攻するとは思わない。先日もSubstackに書いたのだが、多くのロシアの水陸両用艦がバルト海に展開している。バルト海から北海につながるところに複数の重要な島があり、その周辺にだ。それら水陸両用艦を使えば、500人の特別部隊を数分のうちに上陸させられる。
Real Visionの視聴者のために、分かりやすく説明すると、我々はDeFi(分散金融)側にいるので、伝統的金融をバカにしますよね。戦車で国境を越えて攻めると考える人は、(伝統的金融と)同じだ。今の世界は、多くの軍事力がバランスシートの外にある。米国にもロシアにも、傭兵がいる。米国はAkademi(旧Black Water)※2だ。ロシアは、まったく同じとは言わないが、Wanger Group※3がいる。
何人のロシア兵が(ウクライナとの)国境に駐屯しているか数えている人がいる。私は軍服を着ていない何人のロシア兵が既にウクライナに潜入しているのかの方が重要だろう。彼らはプーチンの私兵のようなものだ。今の軍事侵攻に関する見方は、とても古いのだ。
私が正しいと思う見方はどうかと言うと。まず何か月にも渡り、宇宙での争いが続いている。ほとんど公にはされないが、例えば数週間前の出来事なのだが、500マイル以下を飛行する衛星の通信を受信してインターネットに接続する基地がノルウェーのSvalbardにある。2重のケーブルになっているうちの一つが切断された。単に切られただけでなく、1.5マイルぶんが失われた※4。これは西側にしてみれば、重大で計画的な犯行だ。英国の防衛トップは、これを戦争行為(act of war)と考える事が可能だと言った。多くの事が起こっていて、ようやく大衆が知るようになってきた。軍がコントロールできる範囲を若干超えてきて、大衆に対してアラートを出し始めたのだ。
ーあなたはサイバー戦争についても語ってますね。ノルウェーのケーブル以外にも何かありますか?
・バルト海(の周辺)では様々な事が起きている。例えば、スウェーデンでは、ドローンが原発と、スウェーデン国王夫妻の住宅上空を飛行した※5。デンマーク人、スウェーデン人は大変心配している。ロシアの侵攻を心配して、ゴットランド島(Gotland)に戦車を兵士を派遣した※6。その島は、ロシアがバルト海から西側に出るための通り道に存在sる。ゴットランド島は、古くからの要衝だ。ここ5年の間に、非常に多くの潜水艦の活動が見られる。そういった(ロシアの)潜水艦が、先ほど言ったインターネットケーブルを切断したのだろうと考えられる。ケーブルが切断されたのは、初めてではない。
2020年には、英国の軍艦がロシアの潜水艦と衝突した※7。その事故が公になった唯一の理由は、報道カメラマンが乗船していたからだ。この海域では、ロシア潜水艦が活動して、NATO軍が追跡しているのだ。
このように、大衆が知らないところで、様々な軍事行動が行われている。私はこれを、Hot war in cold placesと呼んでいる。宇宙、サイバー空間、公海で起きている。海軍の領域だ。かつては陸軍だった。アフリカもそうだ。ロシアは活発にアフリカで活動している。ロシアの活動を、ウクライナだけ、欧州だけと考えるのは間違いだ。
ー米国は制裁で対応しようとしている。半導体など。ロシアは影響を受けるか?
・その質問に答えるのは、一段下がってみる必要がある。私見であるが、ロシアは単独で動いていない。ロシアと中国は共同歩調をとっている。例えば、半導体で言えば、リトアニアの出来事があった。リトアニアは台湾を認めるような行動をとったところ、中国はリトアニア向け輸出を止めた。これは、ロシアと中国が現代の戦争をどのように見ているのかと一致する。制限はないのだ。使えるものは何でも使え、だ。
人々はウクライナだけに注目し過ぎだ。私の意見では、ロシアと中国は同時に動く。軍事的、商業的に、金融的に、だ。全てが同時並行で動く。これに対して、米国、NATOはまったく準備ができていない。2面だけでもトリッキーなのに、軍事だけでなく商業もだ。現場で起きている事を理解するためには、伝統的なメディアとはまったく違う見方が必要だ。
ーウクライナはNATOメンバーではないので、NATOが反応することはないだろうか?
・反応しないだろうが、NATOがArticle 5に新たなトリガー条項を加えたのは知っておくべきだ。Article5とは、NATO条約の一つで、NATOメンバーが攻撃されたら、他のメンバー国が助けに行く事を規定している。かつては、宇宙、サイバー空間は対象に入っていなかった。今は、入っている※8。技術的には、Article5は発動できると思う。しかし、NATOは明言したくないようだ。どちら側も物理的な衝突はしたくないだろう、少なくとも公になるような形では。宇宙では問題ないだろう。大衆が知るすべはないのだから。実際、宇宙でも多くの衝突が起きている。中国宇宙デブリを攻撃したことがあった。中国の宇宙デブリの定義には、米国の衛星も含まれている[この件は確認できず。正し、米国宇宙軍が”毎日のようにロシアと中国は米国の衛星を(非物理的な方法で)攻撃している”と述べている※9]。ロシアは自国衛星を使って、宇宙デブリ空間を作っている。それによって、International Space Stationは宇宙飛行士を退避させなければならなかった※10。私は、宇宙での戦争は始まっていると思うい、技術的にはArticle5の発動は可能と思う。しかし、そうとは言いたくない。明白なコンフリクトにしたくないから。まるで2つのギャング組織が、お互いを嘲あっているようだ。それをし続けていると、制御不能な事態に陥るかも知れない。
ープーチンの望みは何だろう?人々は、ウクライナの全面占領は無いだろうと言っている。ロシア語地域の占領だろうか?ここからどこに行くだろう?
・様々なシナリオがある。個人的にありそうだと思うのは、こうだ。ロシアの狙いはThe Suwalki Gapだ。そこは、NATOが最も攻めて欲しくない弱点。ロシア領(飛び地)であるカリーニングラードがバルト地域にある。ベラルーシと64マイルしか離れていない。その64マイルのギャップをThe Suwalki Gapと呼ぶ。NATOにとって何十年も重要視してきた地点。我々がウクライナに注意を奪われている間に、ロシアがカリーニングラード、ベラルーシ、バルト海に軍隊を派遣し、コントロールを奪う。すると、ベラルーシとカリーニングラードが繋がる。カリーニングラードには、ロシア海軍基地がある。こうすると、スカンジナビアが文字通り切り離される。それがスカンジナビア半島の国々がナーバスになり、自国軍を動かしている理由だ。
同時に、アジアでは、朝鮮半島38度線で実際の動きがあるだろう。我々が台湾に注目している隙に。韓国と北朝鮮では、和解が成立した※12。そうなると、なぜ米軍30,000人が韓国に駐屯しているのか?という話になる。ロシアも中国も、米軍を撤退させたい。もし撤退ということになれば、ロシアも中国もやりやすくなる。ロシアは太平洋の諸島をコントロールしたがっている(なんの事でしょう?)。中国も南沙諸島をコントロールしたがっている。
文字通り、我々は間違った事に注目しているのだ。
ー市場の動きはどうだろう。天然ガスがロシアから入ってこない。黒海地域は小麦の一大産地だ。ウクライナはトウモロコシの輸出国。欧州も米国もロシアにカネを貸している。
・ロシアが戦車でウクライナに攻め入ったらどうなるか。これは2度目の出来事。その時と同様、市場は反応しないだろう。
先ほど述べたようなシナリオとなれば、ロシアが様々な地点をつなぎ、スカンジナビアからトランスニストリアまで物理的な道を作ることになる。それは、突然ロシア国境が実効的に西側に移動することを意味する。スカンジナビア諸国、東欧諸国にとって様々な意味を持つ。
問題は、市場がどう反応するか?
ホワイトハウスは反応するだろうか?バイデンは、既に答えを言った、「小さい侵攻なら反攻しない」と。そもそも市場や大衆は気付かないかも知れない。
アジアも同じ。米軍が38度線から引けば、ロシアと中国はその地域に大きな影響力を持つ。事が起きても、市場は反応しないだろう。
根本的は質問がある。米国の家庭で、ウクライナ、ベラルーシ、リトアニアのために、税金と血を流したいと思う者はいるか?Yesであって欲しいが、正直に言えば、Noだろう。ほとんどの米国民は、リトアニアがどこにあるかさえ知らない。同じように、朝鮮半島を「平和会談」から守るか?答えはNoだ。ホワイトハウスはほとんど何も出来ないのだ。せいぜい数人で国境に罠をしかけ、ロシアの侵攻を遅らせるくらい。ロシアと戦うようには設計されていない。
ー心理的影響が、経済的影響を上回ったりしないだろうか?スカンジナビアなどで。
・ドイツ海軍将校が辞職しましたよね。公に「ウクライナはロシアのものだ」と発言したから。歴史的には、その通りなのだ。フランクに言って、多くのドイツ人はそう思っている。ロシアに敬意を表すべきだ。ソ連崩壊後、ロシアをヘンテコな経済小国として扱ってきた。それがロシア人を怒らせてきた。彼らは、自分達をスーパーパワーだと思っている。我々が、彼らをスーパーパワーだと思うのは、原子力兵器を持っていると考えるときだけで、それ以外では資本主義に負けた共産国として認識し、ほとんど力が無い国として扱ってきた。それが間違いだったのかも知れない。多くの欧州人が、NATOを東側に積極的に拡大し過ぎていると考えている。キューバ危機をロシアに作るようなもの。ロシアの反応は驚くに値しない。率直に言って、彼らは、多くの領域を所有している。これはスウェーデン人、スカンジナビア人を不安にさせるだろう。なぜなら、彼らは、プーチンの狙いがソ連復旧でないのを知っている。プーチンの狙いは、ロシア帝国の回復だ。1700年代、全てのスカンジナビア半島は、ロシアのコントロール下にあった。
スカンジナビアからバルチックの人たちは不安になっている。しかし、国際メディアはそれを取り上げない。なぜ、スウェーデン、デンマークが(Gotlandに)戦車を派遣しても、ニュースにならないのか※13?
ー今市場は下げている。そういった事態になったとき、ラクダの背を折る最後の藁にならないだろうか?
・逆だと思う。そういった地政学的イベントあったとき、多くの人は「え~っと、大丈夫かな?」と考える。彼らは、状況を受け入れる。市場にいる平均的な人にとって、それらの国々が、遠すぎる、重要でないからだ。私はスウェーデン人とデンマーク人の家庭の生まれだ。米国とNATOが知らんふりすると言うのはツライが。
思い出して欲しい。スウェーデン、デンマークはNATO加盟国ではない。Nordefcoの一員だが。Nordefcoは、それらの国がNATOに入っていない、守られていないという事実に対応するため、2年前にできた戦略的同盟。先ほども言ったが、普通のアメリカ人に「Nordefco諸国を防衛するか?」聞いたら、
「何それ?」となるだろう。
私は、地政学的イベントに対して、それほど弱気ではない。まったく逆と言ってよい。もし米軍が朝鮮半島から撤退すれば、率直に言って、ドイツ、西欧からさらに兵を引くことにつながるだろう。ほとんどの米国人は「それは良い。そもそも何してたんだっけ?年々も前に撤退すべきだった」と言うだろう。
最終的に、でこぼこはあっても、最終的に市場は上昇(rally)するだろう。
ー今年前半は上下しても、後半は上昇すると考えるのですね?
・そうです。
歴史的に言って、大量のキャッシュを供給、低金利を続ければ、インフレにもなるでしょう。すなわち、それは現金を溶かしている。まるで、酸が何かを侵食するように。人々はこれを世界の終わりや、第三次世界大戦の始まりだとは思わないでしょう。
その点、私は第三次世界大戦だと思いますが。第三次世界大戦は、第一、第二とは違うのです。第三は、大衆の知らないところで起こる。今まさに起こっているように。宇宙、海底、でおきる。しかし、それを知らない間は、気にしないでしょう。大衆は多くのカネを持っているので、それをどこかに置かなければいけない。インフレが足首を齧っている。かつての世界大戦のようになっていないのだから、彼らは市場に戻ってくるでしょう。
まるで量子力学の世界ですね。複数の事が同時に起こる。一方で大金持ちになる人がいれば、大変な損失を被っている人がいる。ある種の世界大戦が起きていながら、市場は上昇する。
最後に一言。次のQEはどこに行くか?防衛だ。それも、スーパーコンピューター、量子コンピューター。なぜなら、サイバー空間が全て。相手のコードを破る。原子力だけの話ではない。遺伝子情報、行動情報などだ。そこにカネが使われ、民間セクターにもれてくる。60年代、70年代にNASAがやったように。市場は技術革新にベットするだろう。防衛に対するQEがそれを加速する。
長かった・・・。
この人、あまり見かけが信用できないので(失礼!)、裏付けデータをたくさん注釈として貼っておきました。
彼女のシナリオや結論を信じるかどうかは別にして、日本であまり重要視されていない出来事がたくさんあるなぁ、との気づきになりましたヨ。
※1、ウクライナ関連記事:
※2:
※3:
※4、確かにスバルバードの海底ケーブル切断については大々的に報道されていない:
Svalbard Satellite Station - Wikipedia
※5:
Sweden drones: Sightings reported over nuclear plants and palace - BBC News
※6:
対ロシア、バルト海も緊迫 スウェーデンが要衝に派兵: 日本経済新聞
※7:
ロシア潜水艦、2020年に北大西洋で英軍艦と衝突=英国防省 - BBCニュース
※8:
Nato: Cyber-attack on one nation is attack on all - BBC News
※9:
Opinion | A shadow war in space is heating up fast - The Washington Post
※10:
ロシアの対衛星兵器実験でデブリ大量発生。ロシア人飛行士も滞在のISSに襲来 - Engadget 日本版
※11:
The Suwalki Gap: The Most Vulnerable Land in Europe | Time
※12:
文大統領、朝鮮戦争終戦宣言で「原則合意」 韓国・北朝鮮・アメリカ・中国の4者で - BBCニュース
※13:
https://www.thelocal.se/20220115/sweden-rolls-out-tanks-on-baltic-island-over-russia-tensions/