塾長です。
最近、アルケゴスが破綻して、クレディ・スイス、野村、三菱UFJといった非(英)米系金融機関だけが大きく損害を出しているわけですが、少し視点をずらすと、タイトルのM&A2件、キナ臭いとまでは言いませんが、高値掴みさせられたんじゃないの?米系金融機関に騙されてんじゃないの?という気がしてなりません。
株高、SPAC大流行を見て分かる通り、今は企業価値が下駄をはいている状態。2件とも非公開企業なので、価値算定がとても難しい。グローバルの競争に身をさらしていない普通の日本の経営者に、正確な判断ができるかというと・・・。
それでは、それぞれ見て行きましょう。
・パナソニック、Blue Yonder買収
パナソニック、米ソフト大手買収 7000億円で最終協議: 日本経済新聞
このBlue Yonder、出自がややっこしい。米系ソフト会社ではよくあるパターンデアはあるが、M&Aを繰り返して大きくなっている。
Wikipediaによると、200年以降の主要な買収・身売り案件は、
・2020年、JDAがE3 Corporation買収
・2010年、JDAがi2 Technologies買収
・2012年、New Mountain CapitalがJDAを$1.9Bで買収、プライベート化
・2016年、JDAはHoneywellに身売りを計画するも、Blackstoneの横やりが入って断念
・2018年、JDAがBlue Yonder買収
・2020年、JDAはBlue Yonderに名前を変更
Blue Yonderは非公開企業なので、売上・利益ともに不明。
こちらの記事では、2020年時点、売上$1Bを超えていると推定している:
JDA Software becomes Blue Yonder amid SaaS, autonomous supply chain push | ZDNet
Blue Yonder is estimated to have more than $1 billion in annual revenue
買収金額(7000億円)は、売上の5倍くらい?
ソフトウェア製品会社の買収額(倍率)としては悪くない。
心配なのはのれんと、成長の道筋。
Blue Yonderの買収額が不明なのでなんとも言えないけれど、結構のれんは乗っているでしょうね。そして、この買収そのものによるのれん。
2020年5月PanasonicがBlue Yonder株20%を取得したときは、企業価値55億ドルと言っていた(なので、1千億円程度がプレミアム):
https://news.panasonic.com/jp/press/data/2020/05/jn200520-1/jn200520-1.pdf
成長戦略は・・・、
Blue Yonderは元JDA=老舗サプライチェーンマネジメントソリューション企業ですし、オーガニックには成長できるでしょう。
企業価値以上のカネを払ってPanasonicが買収するのだから、そのプレミアム分をシナジー効果によって賄わなければいけない。
買収を主導したと思われる樋口さんの管轄は、パナソニックCNS(コネクティッドソリューションズ)。物流ITなどを手掛ける会社なので、業界はぴったりはまっているが、大手ではない。SCM製品を持ったところで、業績が伸びるかと言うと・・・?
・日立、GlobalLogic買収
Wikipediaによると、GlobalLogicはカナダの年金基金 Canadian Pension Plan Investment Board(CPPIB)と、プライベートエクイティー Partners Groupがそれぞれ48%所有している。残り4%をApax Partnersが所有していると思われる。
ソフトウェア開発企業と書いてあるので、日本で言うところのSI会社ですね。ソフトウェア・システムの受託開発。
こちらBloombergの報道:
Hitachi Ltd. will pay $8.5 billion for U.S. software development company GlobalLogic Inc.(Bloomberg有料記事)
こちら、その記事が読めるけど、許諾されてるのか?:
It’s privately owned and funded by Canada’s CPP Investment Board and Partners Group.
CPPIB said it expects $3.8 billion in net proceeds from selling its 45% interest in the company.
CPPIBは持ち分45%を$3.8Bで売ると言っている・・・ってことは、完全買収ではないのかな???
ここ、結構アヤシイ。
GlobalLogic, with 130 billion yen of revenue and an Ebitda margin over 20%
売上1千3百億円≒$1.175B。
ということは、(完全買収だと仮定して)買収額($8.5)は売上の7.2倍。
普通、SI会社の買収額は売上の1~2倍では?
同じ記事が別のサイトにも載っていたので、貼っておきます(上の記事が消された時のために):
Hitachi to Buy Software Firm GlobalLogic for $8.5 Billion | Financial Post
Bloombergは日立(の米国子会社)とGlobalLogicの幹部にもインタビューしていた:
中身は大した事言っていないので割愛。
ポイントはBloombergのインタビュアーの冒頭質問だったりします:
「今回の買収額は、3年前のGlobalLogicの評価額の4倍である。なぜこれがHitachiにとってmake senseなのか?」
3年前というのは、2018年、Apax PartnersがPartners Groupに48%の株を売った時の価格(価値)の事だと思われる。この取引の詳細(価格)は公表されていないけれど、Bloombergなら知っているはず。
上で、日立の買収額は売上の7.2倍と計算したが、4で割ると、1.8(倍)。それくらいが、普通のSI会社として普通の評価額(倍率)でしょう。
まとめると、日立/GlobalLogicはパナ/Blue Yonder以上に高値掴みっぽい。そして、完全買収なのかどうかが怪しい(完全買収でなければ、買収額:売上の倍率がさらに上がる)。
後者は買収完了後には判明するでしょうから、その時改めて検証してみたいですね。