塾長です。
不動産テック企業Zillowをご存じでしょうか?本業は不動産ポータルサイト運営。SUUMOみたいなもの。
そのZillowの株価が大変なことになっている。
こちら、直近1か月の株価:
直近終値ベースの高値(11月1日)97.15から32%ダウン。
最高値は2021年2月8日197.81ドルなので、67%減。ざっくり1/3。
何が起こったのでしょう?
その前に、Zillowのwebサイトを覗いてみましょう。こちら、日本人にもおなじみシリコンバレー(の一部、Mountain View市)で売りに出ている家を検索してみた結果:
https://www.zillow.com/homes/Mountain-View,-CA_rb/
家の写真、設備、価格、周辺不動産の価格、近くの学校、内見予約、不動産屋の連絡先などが掲載されている。
不動産に興味ある人なら、ブラウズしているだけで楽しい。
米国の家は、玄関入ってすぐに居間やキッチンがある、シャワーだけの家も多い、一つ一つの部屋がでかい、家具もでかい、廊下が(ほとんど)無い、セントラル空調・・・といった特徴がある。個人的には、普段から日本の家の玄関、廊下が無駄でもったいないと思っていたりシマス。ああ、いつものように話が横道に逸れて行く・・・。
さて、Zillowという会社は、かつてMicrosoftでExpediaを立ち上げたRich Bartonなど著名アントレプラナーらによって2004年に設立されました。有名人が関わっているというのが、注目されている理由の一つ。Zillow - Wikipedia
多くの人がご存じの通り、2020年、米国不動産は爆上がりしました。なのでZillowも急騰:不動産業界のズーム、ジロー株が急伸-コロナ禍の住宅ブーム追い風に - Bloomberg(2020年11月7日付)
Zillowの特徴の一つに、Zestimateがあります。あなたが売りたい家の情報を入力すると、Zillow独自のアルゴリズム(AI)を使って、いくらで売れそうか教えてくれる。ここら辺が(単なるポータルサイトとしてではなく)テクノロジー企業として評価される(株価が上振れする)要因。
こんな感じで言われたりしてました:
次の「FAANG」を探せ、リターン121%ヘッジファンドのお勧めは - Bloomberg(2020年12月9日付)
ジャクソン氏が有望視する筆頭の一つは不動産サイト運営のジロー・グループだ。同社株は3月の安値から4倍になっている。同氏はジローについて「間違いなく次のFAANGになる銘柄だろう」とし、「向こう数年に500億ドルから2500億ドルになる企業のカテゴリーに確実に入る」と自信を示した。
今回何が起きたかと言うと、まず2018年、Zillowは自社で(一般の人から)家を購入し、簡単な手直しをしたあと、自社で売り出す商売に乗り出します。
米国では中古住宅の売買は、所有者が売り主となり、不動産屋に仲介を頼むなり、自分で新聞広告・オンライン広告を出すなりして、内覧会を開催。高く値を付けた人が買う、というケースが多く、このプロセスを面倒と思う人も多い。日本では普通に行われる、不動産買取業者が買い取って、リフォーム、売り出すというケースは少ない(個人でやっているケースは多い、home flipping, house flippingと呼ぶ)。この買取業者をiBuyerと呼ぶそう。なので、この言葉を使うと、”ZillowはiBuyingビジネスに乗り出した”という言い方になる。
2021年10月、Zillowは突如人手不足を理由に不動産買取を中止:IT駆使の不動産売買にも人手不足の影響-米ジローが住宅購入停止 - Bloomberg。このニュースを素直に受け取ると「人手不足が不動産業にまでやってきたのか」や「Zillowの不動産買取サービスを使う人が多いんだな、人手不足が解消したら大きなビジネスになるに違いない」となるでしょう。
しかし、その実、ZillowのiBuyingビジネスはうまく行っていなかったのです。11月2日決算にて、それを告白:
不動産サイトの米ジロー、住宅約7000戸の売却目指す-関係者 - Bloomberg
不動産サイトのジロー、住宅短期転売事業から撤退-損失膨らむ - Bloomberg
事業閉鎖に伴い、最大5億6900万ドル(約646億8000万円)の評価損を計上し、人員を25%減らす予定。
つい一か月前まで「人手不足で中止してます」と言っていたのに、突然「実は全然儲かっていなかったので、この事業止めます」というのは通用しませんよ。1か月前の時点で発表すべき。これは投資家から訴えられてもおかしくない案件。
しかも、この言い訳がよろしくない。11月3日CNBCによるZillow CEO リッチ・バートンのインタビュー:
ーHome Flipping事業から撤退について教えてほしい。
・これは難しいが必要な決断だった。Zillow iBuying事業を閉鎖することで、25%の人員をレイオフする。重い決断。スムースな移行ができるようコミットする。それを最初に言いたい。iBuyerをやるのはリスクが大きすぎる、変動が大きすぎる、あまりに少ない対応、狭い範囲でしかできない、と決断した。
ーそれはやる前から分かっていた事ではないですか?
・そう指摘する人もいるでしょう。この事業をやると決めたとき、我々は6か月先の価格を予想できると考えていた。そして、誤差の範囲は小さく、所有期間は短いと考えていた。実際何が起きたかというと、コロナだ。コロナのパンデミック。その初期段階において住宅市場は凍り付き、その後歴史的な急騰を見せた。それが6か月先の価格予想を難しくした。事業規模が、良い価格を提示するためにあるべき規模の1/10だった。そして、我々は一歩下がって、変動率を再評価した。そして、今日の決算にて、我々は引っ越しを行う人々の決定プロセスに関与する素晴らしい位置にいる、この事業をやる必要はない、と表明したのだ。
ーBloombergのレポートによると、7,000軒を$2.8Bで売るそうですね。また、多くの家が買った価格より低いというのは本当ですか?
・我々は常に在庫として持っている家を売っている。処分特価売出しをするわけではない。売却を急いではいない。順序だてて行う。値上がりした家もあるし、実資産だ。在庫は順次減らしていく。売るための準備は急いでいるが。
は?コロナが原因ですか?と。コロナが無くても、市場にイレギュラーな変動があるのは当然。住宅、株、コモディティー・・・みんな同じ。イレギュラーがないなら、誰もが何も悩まず価格と金利を計算して、家(や株)を買いますヨ。イレギュラーに対応できないなら、「この地区だったら毎年4%値上がりする」程度のアルゴリズムだったって事?ということで、高い株価を正当化していた独自テクノロジー(Zestimate)にケチがついたわけです。
そんなこんなで投資家もあきれ顔。キャシー・ウッドも保有していたZillow株ほとんどを売却しましたとさ:キャシー・ウッド氏のETF、ジロー株を売却-買い増しの翌日 - Bloomberg。
オシマイ。