塾長です。
3月16日FOMC後、債券王ジェフリー・ガンドラックがCNBCに出演し、その動画がDoubleLineからアップされていたので、ご紹介。全訳すると長くなるので、所々端折ったり、まとめたりしています。
・FEDの利上げは2年国債利回りを追従しているだけだ。賃金上昇にも追従しているのだが、こちらは賃金上昇が始まったのに、まだ金利を上げ始めたばかりで、遅れている(利上げをもっと積極的に行わなければいけない)証拠だ。
・株は売られ過ぎていた。コモディティーは買われ過ぎていた。それが、今日株が買われた理由であり、5月FOMCまで株は上昇するだろう。次回以降のFOMCで引締めを強化すれば、株は下がる。
・ファイナンシャル・サイクルと利上げの関係※1が重要だ。今回の利上げのタイミングは、イールドカーブがフラットな状態で始まった。「利上げが起こる時は経済の調子が良い」という人がいる。それはイールドカーブがスティープな時の話。今は2年・10年国債金利差が0.5%以内にあり、景気後退が心配される状態。ファイナンシャル・サイクルの後半に入っている可能性がある。
それでも株が上がったのは、売られ過ぎていたから。私のキャリアでこの映画を何度も見てきた。VIXが35を超えたら(売られ過ぎのサインなので)強気になるべきだ。
・以前インフレ率が10%になると言ったが、言い過ぎかも知れない。8、9%くらいだろう。10%の可能性はある。10%と言った時は、原油が120ドル/バレルだった。2022年を通しては、5%の高いところくらい。FEDが予想している4%台には下がらない。
・債券市場は、1年後の2年国債を2.50%だと予測している。他の年限の国債は2.50%の周辺にある。もちろん私は債券市場を尊重するが、2.50は高すぎると思う。イールドカーブはフラット化するが、2.50%までは上昇しないと思う。30年国債はピークを付けた可能性がある。
・今年に入ってから今まで、S%P500と債券市場は同じ方向、下向きに関連している。60:40ポートフォリオのリターンは酷いものだ。人々はハッピーではない。これが4月に向けてボラタリティーをもたらすだろう。
・このようにイールドカーブがフラット化した経済状況で、FEDがソフトランディングできる方に賭けるのは難しい。これも何度も言うが、FEDのバランスシートとS&P500には関連がある。バランスシート縮小は株にとって逆風だ。FEDと戦うな、だ。5月に向けて株は上がると思うが、今年中に今年の高値を更新することはないだろう。
・消費者センチメントが下落している。自動車と家のせいだ。2022年にリセッションが起こるとは思っていない。2023年には起こるだろう。
・長期債券利回りはピークを付けた可能性がある。長期債が安全な場所だろう。これは奇妙に聞こえるかも知れない。利率が2.5%で、インフレ率が8%なのだから。しかし、現在の経済状況や、不確実性を考えると、他の選択肢と比べると米国債券が一番マシだろう。投資家は米国長期債をポートフォリオに入れるべきだ。
・適格社債の利回りは、国債利回りをうわまわって上昇している。特に年限の長いもの。リセッションに入る前までは、社債を買うのは悪くない。我々は社債を買ってきた。以前は銀行の債券を好んでいたが、今はハイイールド社債の方を好んでいる。
・2年国債の利回りが2%を下回るくらい。それを持つのも悪くない。以前キャッシュのポジションを高めるのが良いと言ったが、リセッションに入るのだから、2年間2%で回せる2年国債の方が良いだろう。
債券のバーベルアプローチ、すなわち長期債と短期債の両方を持つのは悪くないと思う。それぞれ違った理由で、ポートフォリオに置く意味がある。
・私はオールド・スクールな人間だ。Nasdaqが20%下がれば、ポジティブになる。私は最高値の株を買うのは嫌いだ。バリュエーションの高すぎる株は嫌いだ。ジャンクボンドも大嫌いだ。金利差がほとんどない適格社債も嫌いだ。しかし、市場がアジャストしたのだから、あなたはポートフォリオの見直しを考えるべきである。
欧州株は戦争があるにも関わらず、米国株との比較において、同じ程度の成績だ。
Nasdaqは下がったといえ、まだ高い。短期には戻すだろうが、長期的には下がるだろう。2023年以降を見据えるなら、これらover valued株は避けるべき。
新興国株に少しずつ投資すべきだ。長期的(multi-year holizon)には上昇する。私はまだ買っていない。その理由は、新興国株が上昇するためには、ドルが下がらなければいけない。イールドカーブがフラット化している時は、ドルの価値が上がる傾向にある。イールドカーブがスティープ化すると、ドルが弱くなる。私が新興国株を勧めるのは、孫の大学費用のためのもの(訳注:結果が出るのは30年後くらい?)。定職を持っている人が、少しずつ積み立てるのに向いている。
新興国債券も金利差が広がった。2年以上持つ気があるなら、買うのもありだ。
・Bitcoinは40,000~60,000のレンジで動いている。今はその下限。ゴールドは、1750~2,000で、真ん中くらい。どちらかを選べと言われれば、5月FOMCに向けてはBitcoinだ。
・今日は前向きな話をしたが、米国は$24TのGDPに対して、$168Tの債務(unfunded liability)がある。これが次のリセッションでやってくる。ドルの価値が下がるだろう。
ガンドラックが最近気に入っている言説「FEDは2年国債金利を追ってFFレートを設定しているだけ」を今回も繰り返している。これには半分賛同するが、FEDのシグナルに沿って市場が動いているだけ、という言い方も出来ると思う。
彼のお勧めする投資方針ですが、インタビュー形式なので、短期的な話、長期的な話が混在していて、分かりにくいですね。多少自分なりの解釈を入れながらまとめると、こんな感じ?
- 2023年リセッションに陥る(≒2023年以降、米国株の買い場が来る)。米国債務は持続不可能、ドル安になる。
その時に持っていたいのは米国外資産であり、新興国株、欧州株、新興国債券。今のうちに買っておく。
キャッシュを持つくらいなら米国2年債を買っておく。そして期限の来る2年後、下げているであろう米国株を買う。 - 5月FOMCに向けて、債券と株のリバウンドがある。
短期的に、米国長期債、社債、株を買い、利確。
日本株についてはカスってもいないのが悲しい。
そして、日本円生活者には、もうひとひねり必要。米国株安・ドル安(円高)のダブルパンチは喰らいたくないが、「ドル安&それ以上に円安」というシナリオもあるので難しい。
また、個人的には、欧州株が米国株より魅力的とは思えない。欧州にルーツのある米国人と見え方が異なるからか?人口が増加するアジア地域の方が魅力的に映る。投資環境が整っていないのが痛い。そこさえクリアできていれば、シンガポールやマレーシアの不動産などを買ってみたい。”eMaxis Slim全世界REIT”なんてものがあれば良いのに。
ドル安に関連して、こちらの動画でMorgan Creek Capital Management マーク・ユスコ(Mark Yusko)がこんな事を言っていた。
「今のインフレは70年代とは違う。一部(自動車、家)を除けば、むしろ30年代のそれに近い。物価が上昇しているのではなく、ドルをたくさん刷ったことで起きた貨幣価値の低減である」と。
これは昨日紹介したジム・ビアンコの解説※2とほぼ同じ。ジム・ビアンコは(若干意訳すると)「通常、米国のインフレ率は先進国の真ん中辺にいるが、今回は上限にいる。それは米国が最も巨額の景気刺激策を行ったからだ」と言っていた。
そうすると「日本は巨額の財政出動を10年以上続けているのに、なぜ円安にならないの?」という(お決まりの)疑問が出てくるわけですが、こちらの動画でBitflyer 加藤崇昭(Takaaki, Kato)さんがこんな事を言っていた(動画視聴には要ログイン、今の所無料、英語)。
(意訳&要約すると)「ウクライナの戦争が起きて、通常はリスクオフで円高になるはずだったが、ならなかった。何かが(根本的に)変わった可能性がある。そもそも日本の巨額債務などから円安になると多くの人が心配してきたが、そうなっていない。貨幣の価値が下がるのは、資本の逃避が起きた時である。日本人は福島の地震を経験しても日本に留まることを選択したくらい、日本に根を張っている。しかし、ここ数年、年金機構や機関投資家は海外に投資している。これが一般投資家レベルに広がると、高潮のようになるだろう。まだそれは起きていないが。」
ふむ、なるほど。では少し計算してみよう。日本の家計資産は約2千兆円(≒$22T)。
家計の金融資産、過去最高1999兆8千億円 コロナ給付金など影響:朝日新聞デジタル
家計の金融資産の内訳をみると、現金・預金1072兆円▽保険など539兆円▽証券335兆円▽そのほか54兆円。
ざっくり言って、半分が預貯金。これは円と考えて良いでしょう。残りの半分うち、(超ざっくり)2/3くらいが円ですかね?すると、円建て家計資産は約1千600兆円。このうち1/3の500兆円くらいは海外資産になってもオカシクはない。確かに額は大きい・・・。
しかし、資産が海外に移ったとしても、結局日本人が日本で生きていくためには円に替えなければいけない訳で、日本企業が工場を海外に移しても日本に利益を戻しているのと同じ事。日本人が海外に大量脱出したり、外貨を稼ぐ日本企業がダメになったり・本社を海外に移したりしない限り→経常収支が黒字のうちは大丈夫?
経常収支の方はどうなっているかというと、商品価格高騰で(一時的には)赤字。
加藤さんが「何かが変わった」と表現している部分、今までドル円がレンジ相場で動いていたのが変だった、それが修正されようとしている、という言い方ができるのではないだろうか?米国に比べて相対的にGDPは下がっているのだから、緩やかに円安・ドル高が進んでもおかしくない。
ムムム。
円で持っている余裕資金を(米国金利が上がったところで)米国債にしておこうカナ。
#以上、ガンドラックがインタビューで語った事、その個人的解釈等を書いてみましたが、間違い・勘違いもあると思いますし、これらは投資アドバイスではありません。投資は自己責任でお願いします。
※1:レイ・ダリオ(Ray Dalio)のこの動画が非常に分かりやすい(日本語)。いや、ホント、こういう事を中学生の時に知りたかった。そうすれば人生変わっていたと思う。
※2:
また、3月18日、ガンドラックが毎月恒例にしている数字を使ったマクロ経済解説動画をアップしていたので、こちらもご参考。goods、servicesに分けたインフレ率など、オモシロイ情報がたくさんあります: