塾長です。
今ほとんどのエコノミストが、FEDは利上げを急ぐべき、と言っています。株・債券アナリストは2年債券利回りを引き合いに出し、今年の利上げは6回だ、7回だ、と騒いでいます。
例えば、元財務長官で学者のサマーズは、FEDの金融引締めを声高に求めている。
サマーズ氏、FOMCは年末までの7会合すべてで利上げの可能性 - Bloomberg(2/5)
FOMCは今すぐ臨時会合を開き、QE終了を-サマーズ元財務長官 - Bloomberg(2/12)
みんな大好きシーゲル教授も以前から「インフレが来るぞー!FEDは金融緩和を早期に終了させろー!」と言ってきた。
2/11にも、CNBCに出演してその主張を繰り返していた:
・あなたは困難な時を迎えると言ってきた。昨日出たCPIを見て驚きましたか?
・まったくない。アナリスト予想より悪いレポートを予期していた。来月も良くないだろう。3月FOMC前に、もう一度CPIが出る。3月10日に、2月のCPIが出る。非常に重要だ。今我々は(3月FOMCで決定される利上げ幅が)0.5か、0.25かを推測しているが、3月10日にそれが分かるだろう。2月のCPIが予想を上回れば、少なくとも0.5%の利上げが必要だと思う。私は、FEDが(インフレ対策に)出遅れていると、1年以上前から言い続けてきた。インフレ率が7~8%の間にある時、金利が1%以下というのはあり得ない。FEDはよりタカ派となり、我々を驚かせるだろう。
一方、インフレ的環境では、株のような実資産を持っておくべきだ。決算が出てきている。企業は容易にコストを消費者に転嫁できているようだ。これは70年代と違うところ。OPECは石油を絞り、投入物価(input prices)を価格に転嫁できなかった。ゆえに、私は(株の)弱気相場が来るとは思っていない。NASDAQは弱気相場になると言ったが、S&P500は大丈夫。
利上げはアグレッシブに行われる、とても出遅れている。
マクロの人達も、金融引締め派ですね。このblogで良く紹介するジム・ビアンコや、ジェフリー・ガンドラックなど。
その一方、一時的にはインフレが起きているとしても、ここ数十年デフレ傾向であった&それが無くなるとは思えないので、すぐに(←この”すぐに”の部分が曲者ですが)落ち着くよ、と言っている人たちもいる。
このblogではキャシー・ウッドの主張※1などを紹介してきました。
一人だけだと(しかも最近ファンドが下り坂を転げ落ちているウッド氏だと尚更)信用が無いかも知れないので、こちらもどうぞ。
Dynamic Funds ノア・ブラックステイン(Noah Blackstein)は「インフレを引き起こしたのは財政支出による需要喚起である。財政が切れたので、消費需要は減退する。中古車価格年率45%上昇なんてのは続かない」と言っている(詳細割愛)。
そんな人たちの中で、1月CPIが高く出たのは(ある意味における)統計上のトリックだ、と言っている人がいたのでご紹介。
RBC Capital Markets Chief U.S. Economist トム・ポーセリ(Tom Porcelli)
・CPIレポートで興味深いのは、(CPIを計算する際に使われる)ウェイト(weight)だ。今後数か月、インフレに付きまとうだろう。なぜなら、モノ(goods)に掛けられるウェイトが上昇したからだ。(今の)インフレを引き起こしているのは、主にモノの値段だ。サービス(servicces)も値上がりしだしてはいるが、モノが支配するインフレだ。興味深いのは、この新しいウェイトである。以前より1.5%モノの値段にウェイトが(多く)かかっている。米国はサービスが支配する経済であるにも関わらず、モノのウェイトが上がったのだ。それは去年起きた事に基づいている。人々は、(給付金などで)余計に得られたカネを、サービスではなく、モノに使ったのだ。
私は、こんご消費がモノからサービスに移ると思う。今年1年をかけて徐々にだ。モノのウェイトが増加したことにより、インフレの上向き圧力はあるだろう。
この話のオチは、こうなるだろう。今後数か月、モノの値段が上昇し、インフレが進む。消費はモノからサービスに移る。時間が経つにつれ、モノにかかったウェイトがアンカーとなり、インフレの下押し圧力となる。この動きは1年かけて起こる。中期的には、インフレ上昇圧力にさらされる。
消費者は賃金上昇で、とても良い状態だ。それが消費を駆動する。我々は、良い悪いは別にして、名目上の世界に生きている。消費者は自信を持ってカネを使うだろう。
少し待てば、モノの値段が大きく下がる。
ー3月のFOMCはどうなるか?
・今年は4回の利上げがあるだろう。3月は0.25%。パウエルが「謙虚でいる(humble)、謙遜する(humility)」と言っているのは好ましい。去年1年を通してそうしていなければならなかったし、今年もそうだ。さらに、今年は超絶な我慢(hefty dose of patience)が求められる。もし我慢が報われるのであれば、もし彼らがアグレッシブにならないでいられるなら、最低でもインフレが徐々に解消される。ベース効果が、インフレのペースを弱める。さらに、モノからサービスへの消費移行が進めば(インフレはさらに下がる)。彼らが我慢すれば、0.5%利上げは避けられるし、毎回のFOMCで利上げすることを防げる。それがパウエルの決めることだ。
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(バランスシートの話に移る。ここでは割愛)
分かりにくいですかね?分かりにくいですね。それでは読み解いてみましょう。
物価は、複数の一般家庭でよく買われるモノとサービスの値段の変化率を計算し、それぞれにウェイト(消費に占める割合)を掛けたのち、合計して算出する。
例えば、消費支出に占める自動車の割合が3%(←これがウェイト)であった場合、それが10%値上がりしたら、CPIを0.3%押し上げる。数字は適当。
ウェイトは、2年に一度、偶数年に見直される。(January 2022 CPI weight update : U.S. Bureau of Labor Statistics:「2022年のCPIは2019‐2021年の個人消費支出を元にして計算する」)
以上を踏まえて、トム・ポーセリの主張を整理すると次の通り:
- コロナ禍において、人々はコロナによって旅行や外食といったサービスを買えず、余ったカネでモノばかり買っていた。
- その消費行動をベースに2022年のCPIの計算式を作ったら、モノに対する配分が上がってしまった。なので余計にCPIが高く出る(←ある意味統計上のトリック)。
- 22年、消費がモノからサービスに移る&モノの値段が下がると予想されるので、(モノへの配分が高いCPI計算式の上では)CPIはより大きく下がるだろう。
- よってFEDは利上げに慎重になるべきである。
2/10に出た1月 CPIコアは前月比+0.6%(予想+0.5%)、前年同月比+6.0%(予想5.9%)でした。
予想が0.1ポイント外れたのは、ウェイト見直しのせいでは?と暗に言っているようにも聞こえませんか?
そして関連する小ネタ。Liz Ann Sondersのツイートを引用。FEDのサーベイによると、40歳以下の人のインフレ率予想が5%なのに対して、60歳以上は6%なのだそう。
Inflation expectations differ by age ... those over 60 (blue) see inflation rate at 6% a year out, vs. 5% for those under 40 (red) per @federalreserve survey of consumer expectations
— Liz Ann Sonders (@LizAnnSonders) 2022年2月7日
@biancoresearch @Bloomberg pic.twitter.com/9mTkMUN5nP
こうなる理由の一つは、前回のインフレサイクルを経験しているかどうかによるものでしょう:インフレ知らない債券トレーダー警戒せよ-ブラックロック副会長 - Bloomberg。
2番目は、インフレに対する恐怖心の大きさだと思います(年金や資産を食いつぶしながら生活している人達はインフレが怖い)。
ということで、インフレだ!デフレだ!と言っているエコノミスト、アナリストの年齢に注目ながら話を聞くのも面白いと思います。
(サマーズ68歳、シーゲル教授77歳、ガンドラック63歳。ただしウッド女史は67歳!)
と、長々と書いてみましたが、誰も将来を正確に予測することは出来ないので、S&P500(や、全世界株式など)に定期積立して、積立ている事を忘れるのが、最強の投資法だと思いますヨ。
※1: